閑話休題 冷却

たびたび用いていますが、
バイクのことをなぜ「単車」と呼ぶのか。


この単車と言う言葉はサイドカー付きのバイク、
いわゆる「側車付き」に対する言葉という位置づけです。





バイクのエンジンというのは燃料を燃やして動力を発生させます。

燃やす、ということで当然熱が発生しますが
実はガソリンエンジンが動力に変換できる熱というのはさほど多くなく、
その変換効率は20%程度なんて言われることがあります。

とすると、機械的な摩擦だの動力伝達ロスなどを考慮しても70%程度の熱が余ります。
排気ガスの熱量も含まれますのでそっちはいいとしても、
エンジン本体が抱え込んでしまう熱だって馬鹿になりません。
これをエンジン内部にため込むと大変なことになります。
エンジンは安定動作するためにこの熱をどうにかして捨てなければなりません。


バイクでは熱を捨てる手段--冷却方式として主に2つの方式があります。



・空冷
空気で冷却します。
といっても水冷も最終的には空気で冷却するんですが……。


Suzuki LS 650 Savage 86

空冷エンジンのサベージさん、エンジンを見てもらうと分かる通り、
シリンダー周りにたくさんのフィン(ひだ?)がついています。
これによってシリンダー周りの表面積が増えエンジンと空気との熱交換が活発になり、
風が通る際に効率よく熱を持っていってくれるのです。


空冷エンジンでは、冷却水を移動させるためのウォーターポンプ
放熱するための専用ラジエーターなどの特別な部品が必要ではないため
部品点数が少なく安価でシンプルに作ることができます。

ただし冷却状況は走行風を想定しているので、
渋滞など走行風が無いと途端にオーバーヒートが怖くなります。


原付のエンジンも空冷エンジンが多いのですが、
原付の場合は「強制空冷」と言って、シリンダーの横に小さいファンがついており
これで風を送ることでオーバーヒートを防ぎます。
シリンダーの小さい原付ならではの冷却と言えます。
排気量が大きくなると要求するファンのサイズも大きくなるため
電気をバカ食いして恐らくバッテリー負担が増えるものかと。


レースに使用する高性能バイクも昔は空冷でしたが、
パワーが大きくなるにつれて発熱量も半端な量ではなくなり、
空冷では追いつかなくなったので現在のスポーツ車は大抵水冷エンジンです。

しかし空冷エンジンは水冷エンジンには必要のない冷却フィンを纏うその外見から、
専らスタイルを重視するレトロ系のバイクでは未だに積極的に用いられています。





・水冷
シリンダー周りやシリンダーヘッドに水路を設け、
そこに冷却水を通してエンジンを冷却します。

熱を持った冷却水はラジエーターへと送られて最終的に熱は空中へ捨てられます。


1376796752.jpg

このように水冷エンジンにはシリンダーに派手な冷却フィンがありません。
その代わりフロントタイヤとエンジンの間にラジエーターが装着されています。
空冷エンジンにはこのラジエーターがありません。
(たまにオイルクーラーというオイル用ラジエーターがあるヤツもいますが)

ラジエーターというのはオイルヒーターと似たようなもので、
放熱フィンによって表面積が確保され、内部に動作液が通る流路があります。
オイルヒーターの場合、流路を高温のオイルが循環し、
空気との熱交換によって部屋の空気を暖めます。
ラジエーターも同様に、エンジンから熱を持ち去った冷却水が流路を通り、
空気と熱交換することで冷却水の熱を空中に捨てます

しかし最終的に空気に熱を捨てるなら
ウォーターポンプとかラジエーターがない分空冷でよくね?という話です。
実際あのホンダの創始者本田宗一郎でさえその言葉を放ったというエピソードがあります。
なぜ発熱量の多くなったスポーツ車は水冷に乗り換えたのか。


水冷の利点の一つは水の比熱の大きさにあります。

比熱というのは、1gの物質の温度を1度上げるために何J(cal)のエネルギーが必要か、
という単位です。
空気の比熱はだいたい1J/g・K、1gの空気を1度上げるのに1J必要です。
水の比熱はというとだいたい4.2J/g・K、同じ重さなのに4.2Jのエネルギーが必要になります。
どういうことかというと、水の方が空気より熱しにくく冷めにくい、
つまり温度の変化が緩やかなのです。


エンジンには適正温度というのがあり、
オイル温度で言うと100度前後になります。

空冷エンジンの場合、エンジンからダイレクトに空気に熱を逃がします。
逃がせる熱の量は走行風の強さ≒走行速度におおむね依存しますが、
ツアラーみたく発熱の少ない低回転で高速巡航できると
エンジンが冷えすぎな状況(過冷却)を作りかねません。
逆に、レーサーのように常に高回転をキープしながら、
連続する低速コーナーなどを走行していると冷却不足に陥ります。
冷却不足を防ぐなら放熱面積を増やせばいいんですが、
大きな放熱フィンをつければ重量増に繋がるため運動性が落ちます

実際は過冷却なんて話はほとんど無く、
気温が高い日などは街中のストップ&ゴーですら冷却不足に陥ることがあります。
熱の移動がダイレクトなために外部環境の影響をダイレクトに受ける
空冷エンジンは適性温度から外れやすい、
割と不安定な冷却方式と言えます。



これに対して水冷エンジンの場合。
熱の放出はエンジンから冷却水を経て空気へと逃がされます。
冷却水は比熱が空気の4倍ほど。
ということは発熱量に対して温度の変化が1/4程度に収まります。
多少回転数を上下させても発熱量の差違は冷却水が喰ってくれますので
エンジンの適性温度から外れづらくなります。
水冷とはいわば、温度(発熱量)変化に対する緩衝材なのです。

じゃあ冷却水が温まってきたらヤバイんじゃないかって話ですが、
ラジエーターのフィンはエンジンのフィンなどとは比べものにならないくらい細かいので
そのサイズに比べれば表面積は滅茶苦茶多いです。
エンジンの発熱量に対する放熱量をラジエーターのサイズで容易に調整できます。
もちろん重量増は伴いますが、空冷フィンに比べれば効率的です。


ちなみに適正温度が保てる場合、異常燃焼等が起こりにくく、
クリーンな排気ガスを得ることにも一躍買っています。


また、別の利点としては冷却の均一化もあげられます。
空冷エンジンはシリンダーに直接空気を当てて冷やします。
つまり空気が通る場所しか冷却が起こらないことになります。
そうすると、例えば並列4気筒エンジンで考えた場合、
右端や左端のシリンダーは空気と接触する面積を多くとることができますが、
中央右や中央左に位置する内側のシリンダーは両隣にシリンダーがあるため
空気と接触する面積があまり大きく取れません。
結果として中央シリンダーの冷却不足が問題になってきます。

では中央シリンダーの左右に空気穴でも開ければ?と考えられますが、
端シリンダー並みに冷却できるような穴を開けるとということは
空気の流路となる穴だけではなく冷却フィンが必要になります。
こうなってくるとエンジン幅を大きく取らざるを得ず
スポーツ車の課題であるマスの集中化(重量物をなるべく寄せる)が出来なくなって
操作性に悪影響を与えることになります。

別の例ではシリンダーが前後に並ぶVツインエンジンなどわかりやすいです。
シリンダーが前後に並ぶと言うことは、後ろ側のシリンダーには風が当たりにくく
冷却不足になることが容易に想像できます。

水冷ならば熱は冷却水が持ちだしてしまうのでエンジン自体の冷却不均一は避けられます。
持ち出した熱は丸ごと風の当たりやすいラジエーターで捨てられるので、
効率よくエンジンの冷却ができます。
冷却の均一化はエンジンレイアウトの自由度やマスの集中化にも貢献し、
スポーツ車としてより高いレベルの車体設計が可能になります。

さらにレーサー以外の普通のロードスポーツ等では
ラジエーターに冷却ファンを付けることで
渋滞等で走行風が当たらないことによる冷却不足に対応できるのも大きなメリットです。
(レーサーは軽くないといけないので大抵冷却ファンついてません)



余談ですが、400カタナは水冷エンジンですが……



gsx400s katana fins

写真の通り、エンジンに冷却フィンがついています。
これは1100カタナが空冷だったため、
その雰囲気をなるべく壊さないよう水冷ながらあえて冷却フィンを纏っています
90年代はそう言った車種も割と多かったと思いますが、
近年は水冷で冷却フィンを持ったバイクはほとんど見かけない気がします。
いやまぁ……運動性的には無駄ですよね。





さて、冷却方式には2つの方式、と書きましたが
例外的にもう1つの形式が存在します。


それはスズキのお家芸だった油冷エンジンです。

エンジンオイルの役割にはいくらかあります。

多分パッと思い浮かぶのがエンジン部品の「潤滑」
爆発した燃焼ガスの「密閉」
燃え残ったカーボンなどの「洗浄」
金属部品の「防蝕」

そしてエンジンの「冷却」

元々エンジンオイルの役割には冷却が含まれています。
オイルが入ってないとオーバーヒートするというのはこういう話なのです。

油冷エンジンとはこのオイルの冷却という役割を積極的に利用したエンジンです。


よくオイルクーラーをつけていれば油冷エンジンだとか
油冷エンジンなんて空冷エンジンと変わらんだろという話を聞きます。

しかし違います。

油冷エンジンは油冷エンジンたる構造を持ち合わせているのです。


油冷エンジンとは--いい加減長くなってきたので今回はここまでで。

次回、油冷エンジンとそのバイクについて。

2011/06/08 17:44 | 閑話休題COMMENT(2)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

No title

では、油冷シングル・レーサー 『グ―ス』 もお忘れなく。

No:990 2012/10/13 09:33 | siro-kuma #- URL [ 編集 ]

俺のインパルスも水冷ながら空冷見たいなフィンついてるよ!
なんせ刀400と一緒のエンジンだからね

No:4347 2016/05/25 02:24 | 名無し #w98tz4mc URL [ 編集 ]

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