その17 GR650

かっこ悪いことは大罪である




GR650



無縁レベル:3





W650の話で少し触れましたが、
エンジンの部品の一つにフライホイールというものがあります。


例えば単気筒4stエンジンの場合、
ガソリンを爆発させて動力を生み出しているのはおおよそ2回転のうち半回転だけ
エンジンが回転するうちの1/4の間にしか動力は生まれていません。

これは言ってみればサッカーのドリブルみたいなもので、
蹴りを入れた瞬間にボールは一気に加速しますが、
次の蹴りが入るまでにボールは徐々に減速していきます。
そして再び蹴りを入れて加速--を繰り返してドリブルでボールが前に進みます。

エンジンも似たようなもんで、爆発で一気に加速し、次の爆発まで減速していきます。
回転する速度にムラがあるのです。

さぁ、クラッチを繋いで発進しようとするとエンジンに対して負荷を掛けることになります。
爆発直後の速度が速いときに負荷を掛けられればいいのですが、
逆に爆発寸前の速度が遅い時に負荷が掛かるとエンジンが止まります。エンストです。

回転の速度ムラにはそんな問題がつきまといますが、
その対処法の一つがフライホイールという部品です。


フライホイールなんて大仰な名前がついていますが、一言で言えば重りです。
例えば荷物をたくさん積んだ質量の大きい台車は加速しづらいものの減速しづらくなります。

先のドリブルの例で考えてみると、
サッカーボールの代わりにボーリングの球をドリブルするとなると
サッカーボールよりも大きな力で蹴らないと動いてくれません。
加速しづらくなっています。
同時に一度蹴ってしまえばサッカーボールより長い距離を転がり続けてくれます
減速もしづらくなっているのです。

エンジンにも回転部品に重りをつけて質量を増やしてやることで、
爆発のエネルギーで加速しづらいものの、次の爆発まで減速しづらいエンジンに、
回転速度のムラが少ないなめらかなエンジンになります。
このフライホイールは爆発間隔が長くなる低回転域では高い効果を発揮し、
エンストしづらく低速の粘り強いエンジンにすることができます。


ところが低速では恩恵の多いフライホイールも、
高回転になるとその重さが邪魔になってしまします。

かつ、加速しづらい・減速しづらいというのは言ってみれば入力に対して鈍感なので
レスポンスが悪いエンジンになってしまうという欠点も持ち合わせています。



日常的な扱いやすさを取るのであれば大質量フライホイールは有効ですが、
そんなものを装備すればスポーツ性は落ち、
ハリのないバイクになってしまうこと受け合いです。


回転ムラの問題は多気筒化によって爆発回数を増やすことでも解決できるため、
現在はレスポンスが良く、セッティングで低速から高速までカバーできる
多気筒機が幅をきかせていると言えるでしょう。
しかしSRやW650と言った旧車的なバイクにはまだまだ大質量フライホイールが残っています。


さて、ここまでの書き方だと低速と高速の両立は困難なように思えます。
実際の所これは非常に難しい問題で、
昔と比較すると高いレベルで低速と高速が両立している車種がでてきていますが、
それでもやはり完璧とは言いづらいのが現状です。


ところが遡ること30年ほど前、
SUZUKIは面白い試みでこの問題の解決に挑んでいました。


それはクランクの可変マス機構


マス、とは質量のこと。つまりフライホイール
クランクに装着されているフライホイールに遠心クラッチを装着することで、
低速ではフライホイールを利用した粘り強さを、

回転が上がってくると遠心クラッチが開いてフライホイールが切り離され
高回転のシャープな吹け上がりとレスポンスを、
というまさに画期的な機構を採用したバイクを送り出したのです。













gr650.jpg
GR650('83)


……またかよ。

ダサイ。

絶対的にダサイ

絶望的にダサイ

多分コレは10人中10人ダサイと言う。


もうダサイ以外の言葉が見つからん。



えー……

空冷4stDOHC2バルブ並列2気筒エンジン
実はこれ後の油冷みたいな考え方で作られた、
XNでも採用されていたピストン裏のオイル噴射を採用したエンジンでもあります。

最大出力 652ccで53馬力/7500rpm
最大トルク 5.5kgm/6500rpm


スペック上ではパッとしない気がいたしますが、
乾燥重量が178kgと400cc並みだったことから、
常用の加速力は750ccクラス並みだったと言われます。
GS650Gと逆ですね!

GRのために新開発された日の浅いエンジンながらその性能は素晴らしく、
かのPOP吉村がカスタムベースとして使用し
2気筒レースで優勝したバイクでもあるのです。


でも売れなかった。


今でこそ教習所で取れる大型免許
当時の大型免許(限定解除)は免許センターの一発試験しかなく
これが非常に合格車の少ない試験だったため大型に乗れる人が少なく、
また大型に乗れるなら国内排気量上限の750か、
逆車のリッターオーバーという選択肢しかなかったのでしょう。
最近になってようやく国内で評価されている中間排気量ですが、
当時は650ccなんて半端な排気量相手にされなかったわけです。

加えてこのデザイン。


フロント19インチ リア16インチという意味不明なホイールサイズ。
スタイルから察するにジャメリカン路線で行きたかったんでしょう。
そう思いたいところですが、
それならなぜ新開発のエンジンをわざわざコレに積んだのか。
っていうかメッキフェンダーにキャストホイールって……

ソレにもまして意味不明なのが当時の最新技術であるはずのシングルリアサス、
フルフローターサスペンションシステムが採用されていること。
GRが登場した'83年というとRG250γが出たりカタナがモデルチェンジしたりと、
スポーツ車のホイールサイズが18インチ以上から16インチへと小径化していた時代で、
フルフローターサスもこの16インチホイールとセットでスポーツ車として採用される装備でした。


なんでコイツにフルフローターサスついてんのか。



もうツッコミどころ満載です。
これが英国車風ならあるいは生き残れたのかも知れませんが、
そもそもジャメリカンで1本サスって視覚効果的に残念すぎてなりません。

っていうかジャメリカンにすらなりきれてない感じさえするのは気のせいでしょうか。
しかもコイツこれで一番最初に登場した「テンプター」なんですよね……。
後に登場するテンプターはしっかり英国車風なのに……テンプターってなんなんだ。

ちなみに海外は中間排気量に理解があるため手頃な足と見なされたのか
それなりに出回ったそうです。

このデザインで締めるのはあまりに切ないので
海外有志によるGRカスタムをいくらか紹介してみましょう。




gr650 2

gr650 3

キャストホイールをスポークホイールに換装、
全体をマットブラックに塗装、
ハンドルを低いバーハンドルに換装、
スラッシュカットの二本出しマフラー、
サイドカバー撤去。

ケツ回りは若干釈然としないものの渋い。
かなりスッキリした印象でかっこいいです。



gr650 4

前後ホイールの換装、ハンドルを低いストレートバーハンドルに換装、
マフラーは集合化。

ちょっとしか手を入れてないのにこれほど印象が変わるとは……。
旧車然としたスタイルにはちょっと大きめなサイドカバーもさほど気になりません。




GR650 5

前後ホイール換装、ブロックパターンタイヤへ、前後フェンダーレス、
タンク交換、シングルシート化、サイドカバー撤去、
スパトラのアップマフラー。

前2つとは趣の違うちょっと特殊なスクランブラーカスタム
ノーマルハンドルかっこ悪いかと思ったら、
このカスタムではどうもハンドルを変えてる様子がないので
やはりカスタムに寄りけりなんだなぁと痛感させられます。



面白いことにキャストホイールをスポークに換装するだけでかなりマシになります。

元がかっこ悪ければカスタムすればいいじゃないというのは、
日本人が見習うべき姿勢だと考えます。
こっちで街を走ってるカスタムなんてまずカッコイイ単車ありきで
そこからポン付けカスタムですからねぇ……。
外国人からすると果たしてカスタムと言えるのか……。

GRに関しては可変マス機構は非常に興味深く、かつ合理的な機構だと思います。
カタナに乗っていますが個人的には2気筒フリークスのつもりなので、
180度パラツインに可変マス機構を搭載した水冷800ccなんかがでたら
私なんか速攻で飛びつきます。

スズキさん……是非可変マスの復活を……

2011/08/26 20:05 | 無縁レベル 3COMMENT(12)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

スズキ GR650

60をとっくに過ぎたおっさんである。大阪在住。
GR650,40代半ばに新古車で入手、5年弱乗って暴走族に目を付けられ盗難、無残な姿となりやむなく廃車、残念無念。
CB450,W3、その他250など数台のうちで飛びぬけて乗りよかった。可変マス効果は秀逸で5速ホールドのカバーレンジが広く、ために長距離でも疲労が少なく、子供の在学地の新潟行きも難なくこなした(オール下道)。
180度クランクのビートも心地よい。
いまでも中古車検索でついつい目がいってしまうが、パーツ補充を考えるとさすがに手が出せない、カワサキがER-6シリーズを可変マスで出さないかなどと妄想したりなど。
たまに中古もでているので自分でいじれる時間と場所とウデのある方は試して見られてはどうでしょうか。

No:896 2011/12/03 06:15 | いのとん #- URL [ 編集 ]

No title

>いのとん様
コメントありがとうございます。
実車に乗っていた方にコメントをいただけるとは恐縮です。
廃車にいたるまでの経緯は本当に残念です……。

なるほど……可変マスによってカバーレンジが広くなる、というのは漁った情報の中にはなかったので参考になります。
パラツインが見直されつつあるように思う今でこそ採用すべき機構だと考えますが、
パラツインに向かう意図がコストダウンだとするなら、採用は難しいのでしょう。
確かにER-6fなど、ライトウェイトツアラー的な車種には非常に有効な気がします。
私もいのとん様と同様に、GRに関してはパーツ供給に関して不安を感じており、
現状は手を出せないと考えています。実は近所に中古があるのですが……。

これからの記事がお目に触れ、なにか思うところあればまたご教授ください。

No:897 2011/12/05 01:47 | Chaos-T #- URL [ 編集 ]

No title

無縁単車さま

おっさんの駄弁にRESありがとうございます。
ちょうしに乗ってさらなる駄弁、お許しありましょうや?。

いのとん。

No:898 2011/12/08 10:32 | いのとん #- URL [ 編集 ]

No title

>いのとん様

どうぞどうぞ
文字数制限許す限り書いてください(笑)

No:899 2011/12/08 12:42 | Chaos-T #- URL [ 編集 ]

No title

いのとんです。
カバーレンジの話しですが、
単にギクシャクしない範囲ということなら、パラ4のほうがもっと上とおもいます。
(私は、パラ4は知らないのですが)。
ただ、ツインのほうが低速トルクはあると思うので、そのあたりが”味”かもしれません。
ちなみに、5速以外のホールドでも、おもしろい部分があります。
つづら折れ峠の上り、きついコーナーで路面のカントが身をよじって悶絶している道など想像してください。
直線に入って加速し、シフトアップした途端につぎのコーナー->減速->シフトダウン---てな場面です。
このヘンテコ650なら、たとえば2速のままで強引に突破できました(まあ、いつでもとはいきませんが)。
けっこうある低速トルクと軽車重でコーナー最奥でくるり反転後一気加速みたいな乗り方で楽しめました。
たまのマスツーリングではもたつく先行車をつっついたりとイケズな楽しみ方なども(スミマセン)。
あと、クランク角の違いと感覚的なことなどもあるのですが、そのうち、また。
ブログ汚し、あいすみません。


No:900 2011/12/10 23:35 | いのとん #- URL [ 編集 ]

No title

>いのとん様
詳しいレビューありがとうございます。
やはりエンジン的にはどう考えてもアメリカンの車体に乗せるような物ではない気がしますね……。
中型でツインが見直されつつ--というかコスト的にか、増えつつありますが、250や400のツインでもクランクマスの効果は十分にありそうな気がいたします。
このクラスなら車重も軽いので結構面白いバイクになるのではないかとも思います。
う~む、聞けば聞くほど面白そうな技術だというのに……復活しないものでしょうかねぇ~

No:901 2011/12/14 00:52 | Chaos-T #- URL [ 編集 ]

はじめまして、GR650欲しい

No:3265 2015/03/15 00:36 | 牛蔵 #- URL [ 編集 ]

返信

>牛蔵さん
SUZUKIの650は名車揃いです。
珍車と呼ばれていますが概ね名車です。
タマがもう少しあれば……。

No:3267 2015/03/15 18:11 | Chaos-T #- URL [ 編集 ]

ご返信ありがとうございます、私的にはあのスタイルはあり、です。 時折探しはしていますがまだ巡り合えません、まだまだ行脚は続きそうです(*^_^*)

No:3293 2015/03/18 20:59 | 牛蔵 #- URL [ 編集 ]

GR50とか80はかっこいいのにねぇ…

No:4040 2015/12/28 20:43 | jf0qon #- URL [ 編集 ]

悲願のGR650をやっと手に入れました

No:4217 2016/03/21 00:23 | 牛蔵 #- URL [ 編集 ]

エンジンに興味を持って12年前に取得したGR650。還暦をとうに過ぎた今でも乗っています。小気味いい中間加速はとっても気持ちがいいです。これまで乗った36車の中でもエンジンフィーリングの楽しさはVS750と1,2位を争います。残念なスタイルは若干手を加えていますが。

No:4348 2016/05/25 10:54 | ロボット兵 #- URL [ 編集 ]

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