その67 CRM250AR

最後まで進化を求めた2st



CRM250AR



無縁レベル:2




2stシリーズ第4弾


正直HONDAの2stを扱う日がこようとは思っていませんでした

なんせHONDAと言えば基本的に4st作り続けたメーカーであり、
さらには2stに4stで勝とうと意気込んでVT250Fとか作っちゃったメーカーです。

同排気量ならば出力的には2stが有利。
それは当たり前のことで、そこに頼らない反骨スピリットの塊
これこそが本田宗一郎の物作りだろうというステレオタイプが私の中にあります。

なので2stで作って当たり前に速いNSRとか嫌いです。
HONDAの2stは基本的に嫌いです。


しかし世紀が変わろうとする2st終末期。
2stに対して徹底的に技術的追求を試みていたのもHONDAでした。
これは素直にスゲーと思ったので今回紹介。








Honda CRM250
CRM250AR('97)


オンロードスポーツではなくオフロード車。
HONDAの2stオフ車、CRMの最終形態です。

規制に頭打ちされているため諸元は省略。
このバイクが特筆すべき点はひとつ。

AR燃焼システム。




説明の前にとりあえず前回の話のまとめ。

2stエンジンというのは軽量ハイパワーレスポンスが良い環境に厳しくライダーにも厳しく自爆装置付き



自爆の原因の一端を担うのがタイミングのずれた理想燃焼ですが、
このタイミングを制御できたらいいなーというのが前回のお話です。




このタイミングを制御してやろうというのがAR燃焼システムというヤツですが、
これについてはHONDAの公式サイトで解説しているので説明はそちらから引用。




〈AR燃焼の原理〉
2サイクルエンジンの常用域ともいえる低負荷域(アクセル開度が小さい)での不整燃 焼改善の研究をすすめた結果、シリンダー内の残留ガスと新混合気を積極的に混ぜ、残留 ガス中の遊離基(Radical)を利用して自己着火を発生させることが最も効果的な手法で あるとの結論を得ました。
従来から2サイクルエンジンの自己着火現象(点火プラグによらない着火)は、イグニッ ションスイッチを切ってもエンジンが回り続ける「ラン・オン現象」等として知られて いましたが、これまでは、この自己着火現象を止めるための研究が行われてきました。
AR燃焼は、この自己着火現象を出来るだけ幅広い範囲で発生させ、かつ自己着火の着火 タイミングを制御することで、不整燃焼を克服する革新的な燃焼方法です。
AR燃焼の状態では、燃焼室内の無数の点で自己着火が発生するため、燃焼効率が高く、 又通常不整燃焼が問題となる低負荷域でも失火は発生しなくなります。
自己着火の着火タイミングの制御は、排気ポートに設けた「ARCバルブ」で行われます。 このARCバルブは前のサイクルの残留ガスをシリンダー内にとどめて、開始時のシリンダー内圧力を制御して、着火タイミングを変えています。



~AR燃焼~より引用




今までは自己着火
ようするに勝手に爆発するのを抑えるための研究がメインだったのですが、
この勝手に爆発する燃え残り共は見方を変えれば綺麗に爆発してくれるので
コイツを利用してやろうという研究をHONDAは行ったわけです。


ただし全回転域でこれを研究するのは大変です。
特に高回転なんて1回のサイクルにかかる時間が短いわけですから、
その中でタイミングをどうにかするなんて面倒で仕方がありません。
というわけで公道でも使用頻度の高い低回転域に的を絞り研究をしました。


説明にもありますとおり、
排気口に設置したフタを開け閉めすることで、
本来全部捨てたいところの排ガスをわざとシリンダーに残し
新たな燃料と混ぜて勝手に爆発しやすい燃料を作っておき
圧縮が始まったら排気口のフタをまた開け閉めして圧力をコントロールします。

この圧力のコントロールによって
おいしいタイミングで爆発を誘発するわけです。


排気口に設置したフタを開け閉めするのは排気デバイスと呼ばれ
CRM-AR以前の2stでも積極的に用いられていました。
排気口の形状を変更すると排ガス処理に有利な回転域が変化します。
これを利用してなるべく広い回転域でトルクを出そうというのが排気デバイスですが、
既存の排気デバイスとARCバルブとではなにが違うのか?

ARCバルブは排気口を大きく塞ぐことができます。
排気口を塞ぐことで排ガスを残し、それを利用する。

旧来の考え方では排ガスはなるべく捨てるモノだったのですから、
まさに逆転の発想です。

当然ただ排気口を塞げばいいわけではないので、
スロットル開度や水温やエンジンの回転数、
果てはギアポジション(エンジンへの負荷率)等を計算して
どのタイミングで塞げばいいかを決めなければなりません。

この計算を割り出すために並々ならぬ研究が行われてきたと思われます。
なんというかこのあたりはまさに技術のHONDAで、非常に好感が持てます。


実際にどの程度の効果が上がったのかというと、公式サイト記述では

「AR燃焼」の効果(当社製品比較値社内テスト値)
●燃費性能の大幅な向上、実用走行テスト値で約27%
60km/h定地走行テスト値で約29%の向上を実現。
●エミッション性能の向上、排気ガス中のHC(炭化水素)を約50%低減
●ドライバビリティの向上、
主に低・中回転域における出力特性の向上によって、
スムーズでレスポンスに優れたドライバビリティを実現。


とのこと。

実際のレビューを漁ると、AR燃焼領域(低回転域)を使用して走れば
その燃費は20km/lを超えるほどだとか。
そりゃ2stも低回転使って走ればそれなりに燃費は伸びるのでしょうが、
そもそもその低回転が使えないのが2stなのです。
AR燃焼領域を使って走る、
つまり低回転域を使って走れるほどに低速トルクに溢れているわけで、
まさに理想的な2stというかこれってもはや4stじゃね?と思います。

ただし高回転域を多用するとそこはやはり2st。
パワフルなトルクを発生し燃費もガタ落ちするようです。




レースシーンでは発進加速はスタート時だけのことであり、
高回転でいかにパワーを出せるかこそが重要な課題です。
それ故にレース用2stには排気デバイスなんて重量物は必要ありません。

しかし公道はことあるごとに発進加速するため、
アイドリング周辺のパワーこそが重要であり、
パワーバンドの狭い2stが低速域を確保するために排気デバイスが発展してきました。

排気デバイスの登場は恐らく80年代初頭あたり、
レプリカブームの前頃からだと思われます。
年々進化し続けた排気デバイスの究極形態
HONDAのAR燃焼システム/ARCバルブ。

70年代頭、当時世界一厳しい排ガス規制といわれたアメリカのマスキー法
通すことは不可能とさえ言われたこの規制をHONDAは速攻でクリアしました。


その当時の、規制に逆らう技術者魂を、
創業者亡き後のHONDAは2stにおいても魅せてくれました。



まぁその後
ギッチギチに締め上げた規制
あっさり殺される
わけですが。






反骨スピリットが宿ったHONDAのマシンARの話でした。

2012/12/30 00:19 | 無縁レベル 2COMMENT(6)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

面白いです。

 私が今最もハマッているブログです。
もう今年は更新はないのかなぁーと思っていたのですが、続きを待っていたので嬉しいです。

  しかし文章が面白いですよね。
そこもまたこのブログの魅力だと思います。

No:1052 2012/12/30 00:59 | よし #- URL [ 編集 ]

No title

半年ほど前から読ませていただいています。
正直メカには疎いのですが、正直読んでてすごく面白いです。
きっと筆者様の記事の書き方が上手いのだろうと思います。
来年も面白い記事を楽しみにしております。

No:1053 2012/12/30 01:04 | たか #- URL [ 編集 ]

No title

本年最後の更新おつかれさまです。相変わらず面白い記事でした!いつも同じ世代の旧車好きとして陰ながら応援しております。僕自身も大学の駐輪場でFZRやTZRを見るとニヤけるタイプです。
来年のご活躍も期待していますwNo1懐かしバイクアーカイブサイトを目指しちゃってください!

No:1054 2012/12/30 04:53 | Ryo #- URL [ 編集 ]

メカの事はちんぷんかんぷんでありますが、一年間楽しませて頂きました。
Chaos-Tさんがリアルタイムで体感された車種は決して多くはないかもしれませんが、成熟した技術の解析とご自身の確固とした美意識観、そしてなにより実際に数々の名車迷車達と時代をともにしてきた私達以上に熱い想いをもってらっしゃるので、下手したら私達よりバイクを愛するココロは深いのかもしれませんね。

来年も、暴れまくっちゃって下さい。

No:1060 2012/12/31 13:57 | emAcu #/jROnekQ URL編集 ]

Re: タイトルなし

>よしさん
コメントありがとうございます。
なんか偉い過大評価されてる気が……
かしこまって褒める雑誌インプレの様な文章は書けないので
思ったことを素直に書き殴っております。
そのため、もしもよしさんの愛車が記事の対象となった場合は……
バッサリ切られても諦めてください。

>たかさん
コメントありがとうございます。
面白いという言葉が心に染み渡ってくる……ッ
私も説明がうまいワケではないので試行錯誤して推敲しておりますが、
なるべくいろいろな方に技術的な部分も理解していただけるよう心がけていきますので
よろしければクッソ面倒な説明長文もものすごくヒマなときに読んでいただければ幸いです。

>Ryoさん
コメントありがとうございます。
学生さんの旧車好きとは……その若さでなんという厄介な嗜好を……。
今のご時世、大学で珍車に乗ってる輩はなんかズレてるとこが多いので、
話しかけに行くと思わぬ収穫があったりして面白いです。
スマホなんざにはできないバイクというコミュニケーションツールを楽しんでくださいませ。

>emAcuさん
今年は何度もコメントいただきありがとうございました。
おっしゃるとおりで体感が圧倒的に足りてないので、
これからも思うところある車種があれば思い出話でも書き込んでいただけると幸いです。
バイクを愛する心は----
僭越ながら数々の愛車に跨って生きてこられた先輩方と同じくらいの心持ちはあるつもりですw
そんな思い上がりで駄文を書き連ねて参りますので
来年もまたよろしくお願いいたします。

No:1061 2012/12/31 22:20 | Chaos-T #- URL [ 編集 ]

よく読ませて貰ってます。
私のバイク人生のど真ん中の車種が多く懐かしく思いながら記事を読んでからコメント欄を読
んで楽しんでます。


私の中では、2stの一番楽しいエンジンは、小排気量(250cc以下)で排気デバイスも何もついてなくて水冷化して熱だれの心配の無くなった(個人的には空冷2stのフィンはカッコいい)初代RZや初代γや水冷DTなどがフィーリングや音は最高だと思っています。
しかし、各メーカーの技術者の吸気システムや排気デバイスの開発は、あの2stエンジンが扱い易くなって素晴らしいです。
今の技術なら排ガス規制を通る2stが出来るかもしれないと期待しているんですが、次期排ガス規制は、空冷4stでさえ厳しくなるとされているので諦め気味です。

No:4159 2016/02/07 15:47 | きん、 #- URL [ 編集 ]

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